続いている状態ではなく、変わりながら続いていく力として
学校法人の経営を語る場面で、「持続性」という言葉がよく使われる。中期計画にも、理事会の説明にも、この三文字は決まり文句のように登場する。けれども、いざ「この学校の持続性とは何か」と問われると、すぐには答えが出てこない。安定していること、長く続いていること、規模を保っていること。どれも持続性の一面に見えて、そのどれか一つで言い切れるものでもない。
「持続性」という言葉が何を指しているのかは、必ずしも明確ではない。 単に現状が保たれていることなのか。それとも、変化しながら続いていくことなのか。その捉え方の違いによって、見えてくる景色はずいぶん変わってくる。これまでの記事では、財務の構造、組織のあり方、意思決定の仕組みといったテーマを一つずつ整理してきた。第4章では、それらを「時間」という軸でもう一度見直してみたい。持続性とは、その時間の軸の上で、これまでの論点が一本につながる場所である。
学校法人における持続性の特性
持続性を考えるとき、学校法人には企業とは異なる側面がある。
企業であれば、利益の確保や成長が、わかりやすい指標になる。数字が伸びているかどうかで、ひとまずの判断ができる。一方で、学校法人は教育機関であり、社会的な役割を担っている。教育を続けること、人を育てること、地域との関係を保つこと。こうした営みは、その年の収支だけで評価できるものではない。今年の卒業生がどんな大人になるかは、何年も先にならなければ見えてこない。
そのため、持続性を単純な数値で測ることには難しさがある。 利益を出すことそのものが目的ではない組織において、「続いていること」の意味は、数字の外側にも広がっている。教育の営みが途絶えないこと。学ぶ場が、次の世代のために守られていること。それ自体が、持続性という問いの中核にある。決算書には表れない部分にこそ、その学校が続いていく理由が宿っている。
時間の視点
持続性を考えるうえで欠かせないのが、時間の視点である。
1年や2年という短い区切りではなく、10年、あるいはそれ以上の時間のなかで、組織の姿を捉える必要がある。学生・生徒の学びは、時間をかけて少しずつ積み重なる。教育の成果も、すぐに目に見える形では現れない。組織への評価や信頼も、長い年月のなかでゆっくりと形づくられていく。どれも、即席では手に入らないものばかりである。
この意味で、持続性とは時間のなかで現れる性質である。 これまで見てきた財務、組織、意思決定のあり方も、すべて時間と関わっている。一時的に経常収支が安定していることと、長期的に持続できることは、必ずしも同じではない。いまこの瞬間、組織が整っているように見えても、その状態が10年後も保てるかどうかは、別の問いである。目の前の数字の良し悪しだけを見ていると、時間という軸を見落としてしまう。
変化のなかで続く
持続性は、変わらないことを意味するものではない。むしろ、変化のなかで続いていくことに近い。
教育内容は時代とともに変わる。学生・生徒を取り巻く環境も移ろう。社会から学校に求められる役割も、少しずつ変わっていく。そのなかで、何を守り、何を変えていくのか。その選択の積み重ねが、結果として持続性に効いてくる。守るべきものを変えてしまえば芯が揺らぎ、変えるべきものを抱え込めば時代から取り残される。そのさじ加減こそが難しい。
持続性とは、変わらないことではなく、変化のなかで続いていくことに近い。 外部環境との関係も同じである。第3章で見た少子化や競争といった環境の変化は、短期的にはその影響が見えにくいこともある。けれども、時間が経つにつれて、影響は静かに、しかし確かに表れてくる。持続性は、こうした複数の要素が時間のなかでどう重なっていくかという視点と、切り離して考えることができない。
規模と構造
持続性を考えるとき、もう一つ気をつけたいのが、規模との関係である。
規模が大きいことが、そのまま持続性につながるとは限らない。大きいがゆえに小回りが利かず、環境の変化に対応しきれない組織もある。逆に、小さくても安定して続いている学校はいくらでもある。大切なのは、規模そのものではなく、組織の構造が環境とどれだけかみ合っているかである。無理な拡大が持続性を損なうこともあれば、身の丈に合わせた縮小が、かえって安定につながることもある。
つまり、持続性は、規模の問題というよりも、構造の問題である。 大きくすることでも、小さくすることでもなく、いまの環境に合った形をどう保つか。その問いのほうが、ずっと本質に近い。規模を追い求めること自体が目的になってしまうと、足もとの構造がいつのまにか痩せていく。逆に、身の丈を見極めた組織は、派手さはなくとも、長く静かに続いていく。数の大きさより、かみ合いの良さ。持続性を考えるときの物差しは、そちらに置きたい。
持続性を支える構造的要素
持続性は、結果として現れるものである。意図して「作る」ことのできるものではない。けれども、持続性に影響する要素を、あらかじめ整えておくことはできる。
財務のあり方。組織の設計。意思決定の仕組み。これらはすべて、時間のなかでの安定性に関わってくる。日々の判断のひとつひとつは小さくても、それが積み重なって、組織が持ちこたえる力になっていく。そして、見落とされやすいもう一つの要素がある。それは、教職員に対して組織が交わしている、制度という約束である。退職金をはじめとする処遇の制度は、日々の勤務の積み重ねとして、表には出ないまま静かに存在している。それが将来にわたってどんな構造で支えられているのか。制度の持続性は、組織の持続性と無関係ではない。
学校法人における持続性とは、単に続いている状態を指す言葉ではない。時間のなかで、教育の営みと組織の構造がどのように重なり合い、変化しながら保たれていくのか。その全体像を捉えるための視点である。それは、財務や組織といった目に見える構造だけでなく、教職員一人ひとりとの約束の積み重ねの上にも成り立っている。第4章では、この持続性を支える要素を、退職金、特定資産、補助金、定員、資産形成と、一つずつほどいていきたい。
何が持続性を支えているのか。次回はその問いを、より具体的な制度の視点から考えていきます。続いていく学校とは、誰かが守り抜くものというより、日々の選択が静かに積み重なった先に、いつのまにか立ち現れているものなのかもしれません。
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